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zoom RSS 『交渉人 真下正義』(2005)「踊る」シリーズ・ファンが観ても、楽しめたかどうか疑問の作品。

<<   作成日時 : 2006/09/03 11:22   >>

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 『踊る大捜査線』はテレビ・ドラマの大ヒットに始まり、すぐ調子に乗るフジテレビの後押しもあって、劇場版『踊る大捜査線 THE MOVIE』、続編『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボウ・ブリッジを封鎖せよ!』も記録的な大ヒットを飛ばしました。「踊る〜」はフジテレビにとっては貢献度の高い「金のなる木」的な人気シリーズとなりました。

 今回も製作に亀山千広、監督に本広克行、脚本に君塚良一という「踊る〜」ファンにはお馴染みの名前がスタッフ・ロールに名を連ねました。彼らが本当に製作したかったのは『踊る大捜査線 THE MOVIE 3』でしたが諸般の事情により、この企画に落ち着いたのでしょう。

 何故か観客を大動員できると思われている、数少ない俳優である織田裕二と助演を務めた柳葉敏郎の二枚看板俳優の修復不能な確執、貴重なバイプレーヤーだったいかりや長介の死去に伴い、更なる続編を作りにくい状況にありました。そこで苦肉の策として出てきたのが「踊る〜」ドラマでの脇役だった俳優たちを主役に据えた外伝的作品の製作でした。

 その第一回目の作品がユースケ・サンタマリア主演でおくる『交渉人 真下正義』ということになります。果たしてこの映画は年間の動員数で邦画部門の三位に輝きましたが、大騒ぎするほどに出来の良い作品だったのだろうか。

 性懲りもなく、柳葉敏郎主演で『容疑者 室井慎次』も製作されました。そのうち『被害者 恩田すみれ』とか『天下りだよ! スリー・アミーゴス』が製作されるのかもしれません。その様子からはゴジラ・シリーズが迷走を続けていた昭和シリーズ後期作品を髣髴とさせる。偶然かもしれませんが会社も東宝ですね。

 「踊る〜」ファンは1000万人規模で日本中に散らばっているので、このような焦点がボケた作品でもある程度の集客を見込むことは出来ます。しかし「踊る〜」の続編としての出来上がりを期待していると見事に裏切られてしまう。コア・ファンを「踊る〜」世界から引き離しかねない製作サイドの緊張感の無さと暖かみの無さは一体何なのだろうか。

 まず致命的なのは凶悪犯との交渉人というヘビーな役柄を務めるにしてはユースケの演技があまりにも軽すぎることです。ただこれは彼の個性なので、彼の責任とは言えません。もちろん役柄上、クールな対応と演技を求められる役どころではあります。しかしクールな演技でも観客は十分に感情移入できるのです。しかし何か違和感がある。

 そうなると彼はこのようなサスペンス要素の強い作品の主役を張れる器ではないという結論になります。実際「踊る〜」ドラマでの彼は間抜けさ、世渡りの上手さ、学歴、そして親のコネで出世するサラリーマン官僚警部を演じていたはずなので、いくら唐突に続編映画「レインボウ〜」で、交渉人という設定で現れても、何かピンと来ませんでした。さらに追い討ちをかけたのがこの映画でした。

 いったい彼と犯人との会話の何処に交渉があるというのだろう。オタク同士の会話となんら変わりない。知恵比べの緊迫感も無く、目新しいギミック(ディベート的な説得方法や会話を導く話法)も無い。あんな単純で幼稚な交渉しか出来ないのだとすれば、重大事件や誘拐などの凶悪事件のほとんどは未解決のまま「コールド・ケース」化するでしょう。

 演技者で印象に残ったのは國村隼、寺島進、そして御大・金田龍之介の三人でした。ただあまりにも昭和テイストを撒き散らす彼ら三人がこれ程目立ってしまうというのは二十代、三十代の俳優達が見せ場を全て持っていかれているということに他ならない。

 息詰まるような交渉を期待してみていると、あまりにも幼稚な展開にがっかりしてしまう。演出面でかなり参考(パクル?)にしていると思えるのは『暴走機関車』、『新幹線大爆破』、『知りすぎていた男』、『2001年 宇宙の旅』などで、一緒に見た友人は『パトレイバー』みたいだったと漏らしていました。僕は見てないのでなんとも言えません。

 突然走り出した機関車が管理センターで制御できなくなり暴走を始めるというのは『暴走機関車』に似ている。高速で移動する列車に爆弾が仕掛けられているかもしれないというシチュエーションは『新幹線大爆破』そのものです。

 クラシック演奏会でのシンバルが重大な事件の引き金になるという筋書きは『知りすぎていた男』に他ならない。事件と音楽を同時進行させる試みも目新しい手法ではない。赤いモニターを持つコンピューターが暴走を始める(今回はオタクが遠隔操作)というのは『2001年 宇宙の旅』でのコンピューターHALを思い出します。

 黒い鴉が何度も登場するのを『鳥』になぞらえることも可能ではありますが、前作で警察権力によって用いられたスパイ監視システム「カラス」と同じく、徐々に警察の追跡が犯人に迫ってきている比喩ともとれる。

 内外のパニック映画の良いところ取りをして、一本の映画として成立させてしまったのが、この作品であるとも言えます。

 再利用したのは名作映画のアイデアだけではありません。「踊る〜」ファンのお楽しみであった「リンク」という名のお遊びを今回も無理やり突っ込んでいます。カエル急便、緒方(甲本雅裕)・森下(遠山俊也)コンビ、特殊部隊の草壁(高杉亘)、ナイフ・コレクターの髯のおっさん、警視庁の階段、すみれ(深津絵里 台詞中のみ)&青島(織田裕二 今回は台詞中のみの登場)、雪乃の写真立て、エンド・ロールで出てくる記念撮影写真などそれまでの作品群をすべて見ている人には解るリンクが張り巡らされてはいます。

 しかしこのリンクは今回は不発でした。犯人と交渉人との攻防を期待して見ているのに、無意味なリンクを貼られても気が散るだけです。しかもたいした意味を持たないと来れば、余計必要ありません。数年前に機能したネタがいまでも通用するとでも思ったのでしょうか。 

 犯人を割り出すために警視庁から取り寄せられる捜査資料がフロッピーだったり、捜査記録書類だったりして、まったく整理されていない状況は現実にもありそうで、笑うに笑えませんでした。

 カメラの使い方では人物の周辺で半円を描くドリーを使い、ズームをかけるか、焦点を合わせながらクロース・アップを見せていく手法を「癖」のように多用しているのが目につき、画面に集中しづらい。多用しすぎて効果が薄れてしまっている。

 機関車を撮るポジションにも問題がある。コンチャロフスキー版『暴走機関車』でも見受けられたことなのですが、暴走する機関車を外から撮ってしまったために臨場感とスピード感が減ぜられてしまっている。

 威圧感を出す仰角で撮られているのでコンチャロフスキーに比べれば、スピードの減り方は少なくなっていて、暴走車としての威厳を保ってはいますが、スローモーション(せっかくのスピードが台無し!)で駅ホーム内を通り過ぎる映像とともに必要ない場面でした。

 洋画中心の映画ファンの気を引くために用意されたような犯人クイズで出てくる名作映画の数々も、特に必要となるのは『愛と哀しみのボレロ』くらいで、『オデッサ・ファイル』、『シェルプールの雨傘』、『ジャガー・ノート』、『華麗なる賭け』、『男と女』などは別に持ってくる必要もありませんでした。

 全てにおいて薄っぺらく、人物描写にも深みがない。犯人とのやり取りを主にする交渉なのに、最後になっても犯人は顔を見せず自爆して終わってしまう。犯人が誰かも結局はわからないのに、唐突に作品を閉じられてしまったのには吃驚しました。
 
 クライマックスで、西村雅彦指揮による『ボレロ』の演奏が始まり、この演奏と同時進行で一気に事件を解決していく力技は評価します。しかしここでもクロス・カッティングで各々の仕事を遂行しようとする警察官、地下鉄マン、特殊部隊、犯人、水野美紀、そしてユースケの様子を転換していく際に、いちいち時間の流れを切ってしまうストップ・モーションを使用するのは解せない。

 今回製作スタッフがこの「踊る〜」シリーズで、ファンから支持されている肝心な視点をいくつか欠落させてしまっているのもドラマに奥行きを与えられずに失敗してしまった要因のひとつであろう。欠落とは「本店対支店」の確執であり、所轄の活躍である。それが今回はまったく描かれていない。ユースケを支店、地下鉄責任者の國村を本店と言えなくもないが、地下鉄と警察は別物でしょう。

 興行成績が良いからといって、胡坐を掻いていれば、すぐに見捨てられてしまうという現実を知るべきであろう。「踊る〜」第三弾映画を製作することがもう不可能なのであれば、いい加減にその呪縛から解き放たれた方がよい。テレビ・ドラマから数えるともう10年近く経っているのです。主要な俳優たちもどんどん年を重ね、かつての輝きと躍動感を期待するのも無理なほどの年月は既に経過しているのです。

 いかりや長介だけではなく、端役の人々も何人かは鬼籍に入ったり、引退してしまっているのが実情です。ドラマでのサイコ犯(伊藤俊人 眼鏡を掛けていた人です。)、ドラマの最終回と劇場版に出演した吉田副社長のお母さん(原ひさ子)も亡くなりました。

総合評価 61点

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