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help リーダーに追加 RSS 『潜行者』(1947)ボギーとバコールが共演した作品で、息がぴったり合っています。

<<   作成日時 : 2006/07/02 19:18   >>

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 デルマー・デイヴィス監督による犯罪と冤罪を扱う作品で、ハンフリー・ボガートとローレン・バコールによる息の合った演技を堪能できる佳作がこの『潜行者』です。二人の演技だけでも一見の価値がありますが、演出にも素晴らしい仕掛けがされていました。

 124分という上映時間の中で、最初の一時間をボギーのモノローグと主観ショットだけで見せ切る凄みを味わいたい。彼の顔を全く見せずに、物語をスリリングに展開したデイヴィス監督の演出上の力量も見逃せません。

 とかく有名スターが出演する場合にはクロース・アップが過剰に盛り込まれてしまう作品が多々ある中で、オープニングからずっと登場していて、しかも台詞も多いのに一度も顔を見せないという演出は個性的ではあるが、役者サイドから敬遠される可能性も高い。

 このようなチャレンジに敢えて挑んだボギーの勇気と前向きさをまずは高く評価したい。もともとギャングスター映画の顔だった彼だからこそ出来た演技ではないでしょうか。彼が映る時も、夜の暗闇や光によって作られる影を使う事で、完全に彼の顔をマスキングしています。

 このようなこだわり映像をふんだんに盛り込んでいるこの作品は公開当時よりもむしろ、時が経った今だからこそ、高評価を与えられるべき作品なのです。知名度という点では『カサブランカ』、『マルタの鷹』、『俺達は天使じゃない』などに比べれば遥かに劣るのは承知しておりますが、決してこの作品はそれらに比べても引けをとる作品ではない。

 冒頭、爆走するトラックの荷台からドラム缶ごと落下して、川辺に逃げ延びる映像だけで、この映画の主人公が何者であり、その後の展開を知りたくなるように仕向ける演出の見事さはただものではない。しかも全く台詞がなく、映像で語ってくれるのです。

 画面の作り方もユニークで、ドラム缶から這い出て、囚人服を脱ぎ捨てるシーンをドラム缶内部からの視点でボギーを捉えているのですが、その様子がまるでアイリス・インを用いているように見えるというケレンミたっぷりの構図でした。

 主観ショットで一時間以上を見せ続けている事は先ほど述べましたが、犯罪者らしく視線の方向が一定せずに不安定なのも、彼の心理状態を表すようで興味深い。特に脱獄して直ぐの視線の動き方と潜伏してからしばらく経ってからの視線の動き方は全く違う意味がある。

 それは脱獄して直ぐの、行き場も定まっていない不安感からくる目線のブレと、潜伏先も決まり、追い詰めてくる警察や関係者に対する用心が原因となる目線の動きの差なのではないだろうか。

 上映開始後25分で、ようやくボギーの顔がシルエットで映される。徐々に一般人のいる世界に溶け込みだし、一時間後になって、ようやくみんなと同じように、いつものボギーの姿形が映される。しかし最初は顔を包帯で巻かれているので、ボギーの目しか見えません。

 何故一時間も掛かるかは見てのお楽しみなので、敢えてここでは触れませんが、この作品での最大の仕掛けをより効果的に用いるために採られた演出が主観ショットとモノローグだったのです。スタイリッシュな演出と滑らかなカットの積み重ねにより、この作品の映画としての質はかなり高いと断言できる。

 荒唐無稽なストーリー展開ではありますが、人間関係と事件が複雑に絡み合い、誰が真犯人なのかはなかなか分かりません。大人の世界のドロドロした部分を抉ってきます。それがこの作品に深みを与える。

 演技ではボギーとバコールの親密な関係がこの作品でも画面を通してもはっきりと分かります。特筆すべきはボギーであり、前半一時間を完全に主観ショットとモノローグだけで演じきったボギーには新境地を開いてくれた作品だったのではないでしょうか。

 また彼らの演技も良いのですが、この作品で最も光ったのはマッジを演じたアグネス・ムーアヘッドで、嫉妬深い年増女を見事に演じていました。彼女がいなければ、相克や嫉妬に狂うドロドロとした世界を表現するのは難しかったかもしれません。

 主役はもちろんですが、悪役が光っているのは脚本が優れている場合と演技力が優れている場合があります。この作品の場合は脚本には少々強引な設定もあるのですが、演技と演出がそれを補っていて、強引さが反対に力強さに感じます。引き込まれてしまいました。

総合評価 80点

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『記憶の棘』を探して
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
用心棒さん、こんばんは。
『潜行者』はスリリングでしたね。しかし、ボギー&バコールは安心して観ていられます。

ジャン・ピエール・メルヴィル監督の『仁義』と『サムライ』は、この作品からの引用もあったような気がしています。意外に影響力があったんじゃないでしょうか?
ハリウッド・テンの時代の作品であることも、この映画の評価が正しくされていない原因のひとつだと思います。

ところで、アグネス・ムーアヘッドって『奥様は魔女』のサマンサのお母さんではありませんか?
勘違いかな???
では、また。
トム(Tom5k)
2006/07/03 20:30
 トムさん、こんばんは。
はい。アグネス・ムーアヘッドはサマンサの母ですから、ダーリンの義理の母?になるんですかね。好きなシリーズだったんで、欠かさず再放送を見ていました。サマンサはマリー・ビスケットのコマーシャルにも出ていたような記憶があります。

 アグネスは『市民ケーン』、『偉大なるアンバーソン家の人々』、『ショウ・ボート』にも出演していました。

 明るく楽しいミュージカルがもてはやされる一方で、イデオロギーや政治の動向で表現が制限されたり、追放されたりするのはナチズムとなんら変わりはないですね。

 ハリウッドで展開される自由と平等などの美辞麗句の裏で、追放された映画人がいることを忘れてはならないのではないでしょうか。

 主義主張を超え、良いものは良いと言える状況というのは歴史上あったんでしょうかね。『戦艦ポチョムキン』のように、東西かかわらず映画人に影響を与える作品が本物なのでしょうかね。ではまた。
用心棒
2006/07/04 01:08

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