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zoom RSS 『ダンボ』(1941)じつはかなりディープな内容だった、素晴らしき初期ディズニー作品。

<<   作成日時 : 2006/05/31 10:52   >>

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 子供の頃、見てそれっきりになっていた作品のひとつがこの『ダンボ』です。覚えていたのは耳で飛ぶシーンとピンクの象くらいで、そのほかは全く記憶に残っていませんでした。かつて見た作品を再び見る過程のおいて今回選択しました。

 雨の描写が何度か出てくるのですが、1941年という第二次大戦の年にこのように美しく、そしてリアルに描いていた技術の高さに圧倒されます。黒澤作品を思い出しましたが、アニメ映画では初期ディズニー作品での「水」の表現の豊かさと美しさには常に驚かされます。

 コウノトリによって、平等に運ばれてくる子供たちは例外なく親に可愛がられ、虐待されている子供は一匹もいない。唯一の例外がダンボで、母親(ジャンボ)は愛情を注ぐのですが、大きすぎる耳のために化け物(FREAK)呼ばわりされ、蔑まれます。

 サーカスという見世物小屋で、芸を仕込まれますが、まったくものにならず、作品中でもっとも地位の低いものとされているピエロの地位にまで落とされてしまう。社会の最下層に落とされる奇形児を見るのはかなり辛い。

 実写ならば、すでに『フリークス(怪物團)』という強烈な作品がありましたが、アニメでこのような性質のものが出てくるのはおそらく初めてなのではないでしょうか。

 一種の奇形として扱われ、コンプレックスの塊になってしまうダンボの様子はとても子供向きに製作された作品とは思えません。姿形は変わっても等しく授けられた生命、ディズニーが示したのは生命の平等と個性の素晴らしさであり、結果の平等ではない。

 すべての生きる者にはなんらかの才能があり、コンプレックスに感じる事でもやり方次第では大きな武器になることを我々にしめし、悩みを持つ者を力づける。悩んでいる人を大いに励ます作品は60年以上の年月を経てなお新鮮で力強い。

 映像を見ても、とてもそんなに古いものとは思えないほど、豊かな表現に満ちていて、アニメでしか描けない素晴らしい世界があることをはっきりと製作者が意識しているのが実感できる仕上がりになっています。

 コウノトリ、サーカス一座、建築物、機関車、ねずみ、カラス、象、後半出てくるマーマレード・スカイ(ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズみたい!)などキャラクターや背景にたいして、ディズニーがどれだけこまやかな気配りと愛情を注いでいるかが伝わってきます。

 機関車の表現は特にアニメ的で、見ているだけで楽しくなってくるシーンのひとつです。曲がりくねった線路、汽笛と機関車は擬人化され、現実にはありえないが、アニメなら表現できるという、アニメの良さを全面に押し出していました。音楽との相性も良く、映像と音楽の両方で作品を盛り上げるディズニー映画の特徴を表すシーンでした。

 象たちがサーカス芸としてピラミッドを作るシーンがあり、そのときの象たちの緊張感と疲労感を表現する、汗やぐらつき具合が妙にリアル感があります。新鮮な表現でした。

 革命的な映像表現もあり、ピンクの象のダンスは60年代のサイケデリックな色彩を先取りするような奇妙ではあるが楽しい演出であり、当時のディズニー社にあった、映像として出来る事は何でもやっていこうとする冒険心に溢れる試みでした。その前にある酒がバケツに沈みこんでいく時の液体の表現の巧みさとあわせ、よくもこれだけのものを一時間ちょっとに詰め込めたものだと感心します。

 悪夢的で狂気の世界を表現しているようなシーンではありますが、印象に強く残ります。最近のディズニー作品が失ってしまった、観客に対する挑戦や人間への深い洞察が詰まっている印象があります。

 歌ももちろんディズニーの持ち味であり、ジャンボが歌う子守歌、労働者の歌、ピンクの象が歌うシーンなど記憶に残る素晴らしい歌が多く挿入されています。ミュージカルが映画の楽しみの一つであることを知っているアメリカ人製作者らしい表現なのかもしれません。

 しかし映像だけで判断すると、素晴らしい作品ではありますが、興行的にはどうだったのでしょうか。かなり難しいテーマを本質に抱えるこの作品が受け入れられたのだろうか。ほろ苦いビター・チョコのような作品でした。

 黒人を表すようなカラスたち、知恵の回る嫌われ者のねずみ、奇形のダンボは蔑まれてきたもの同志で強い連帯感を持ち、励ましあい、自分の個性を押し出していく事で、社会に挑戦し、成功する。ねずみは飛べるようになったダンボのマネージャーに就任し、カラスは取り巻きとしてダンボの後についていく。

 いろいろな読み方が出来る作品でした。実際にダンボが飛ぶのは最後の3分間だけですが、これ程印象に残っているのはただ単に象が飛ぶからというのではなく、それまでの地を這うようなダンボの苦闘をしっかりと表現していて、空に飛ぶという重要な意味を持つ、このシーンを演出上最も効果的にするのが、最後の3分間だと判断したからでしょう。

 とかくこのような作品では売り物である「飛ぶシーン」を存分に盛り込みたいところですが、一度だけしか使わない事によって、より強い印象を観客に与えています。成功に溢れる人生の第一歩を踏み出した(羽ばたきだした?)ダンボは一気に観客の緊張を解きほぐし、リラックスさせる。見事な演出です。
 
総合評価 90点

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内 容 ニックネーム/日時
今晩は用心棒さん(^O^)いよいよ 明日「ダ・ヴィンチコード」観にゆきます。今日いったら 席が前しかないので明日にしたのです。映画デーなので千円です!「ダンボ」はビデオでみました。間違いなく名作です。1940?←三船敏郎が出た戦争映画で ダンボを観て泣くエライさんのシーンを思い出しました。
和登さん
2006/05/31 22:46
 和登さん、こんばんは。

>今日いったら 席が前しかない

 あれメッチャむかつきますね。首痛くなるし、音の感じもおかしいですし、観るのは後ろの真ん中が好きです。

 3時間越える長い作品ならば、端に居た方がお手洗い近いから安心なんですが、今のところ、途中で席を外した経験はありません。

 スピルバーグの『1941』で、彼の大好きなこの『ダンボ』と彼の師匠、黒澤明監督のヒーロー、三船敏郎を一緒に使えるようになるほどスピルバーグが出世したということでしょうか。いいシーンでしたね。
 
 ではまた。『ダヴィンチ・コード』楽しんできて下さい!
用心棒
2006/05/31 23:10
今晩は。用心棒さん。
自分もダンボは大好きで、3歳のころから見ています。ようやく20歳になってダンボの本質が理解できたような気がしました。本当に今見ても泣ける。
あ、ちなみに興行的には大成功でしたよ。この映画。この映画が公開された前年の作品であるピノキオの興行的失敗(これも未だにしんじられない)を見事取替えしたそうです。
woody45
2006/06/14 00:27
 woody45さん、こんばんは。そして、はじめまして。
>ピノキオの興行的失敗
らしいですね。素晴らしい作品だと思いますが、何か時代的に引っ掛るものでもあったんでしょうか?今度記事をアップした時に思いつくものがあれば、書いていきます。
 
 ダンボが飛ぶシーンって、凄く印象に残っているんですが、実際にはほんの数分なんですよね。それだけインパクトの強い映像だったという証明でもあります。

 興行的には失敗という意味では『ファンタジア』もダメだったと聞いたことがありました。

ではまた。
用心棒
2006/06/14 18:51
 TB&コメント有難うございました。
 相変わらず細かく見られていますね。

 僕は例によって全体把握でして、芸術的表現の見事さに感心しました。
 そこに浮かび上がるのは、昨今のディズニー映画に観る自縄自縛。台詞が多いのはディズニー以上に他のアニメ映画かもしれませんが、現在のディズニーはアニメも実写も枠に嵌められた家庭再生の物語ばかり。アメリカの親子関係がそれほど傷んでいる証左なのかもしれませんが、最初から仲の良い親子がいても良いでしょうにね。全くつまらん。

 中盤の幻想場面は、モダン・バレエを観るようです。最近の即物アニメ作家は夢にも作ろうとは思わないでしょうね。
オカピー
2008/02/05 01:00
 こんばんは!
 あまり言いたくないし、禁句かもしれませんので話題にもしてきませんでしたが、ディズニー映画はとっくに終わっているのではないかと思っているオールド・ファンは多いのではないでしょうか。
 ここ20数年の作品について。
1.なんといっても夢がない。すべてがこじんまりと予定調和の中で終わってしまう居心地の悪さはなんなのでしょう。
2.つぎに冒険心がない。革新的な表現に出会うことがないですね。会社的にも迷走していたようで、興行的には失敗だったのでしょうが、個人的には『トロン』のほうが好感が持てます。
3.すべてがキャラクターグッズに繋がるように制作される作品の貧相さ。これが一番の問題かもしれません。
4.興味がなくなった。家族愛だけで片付けられるほど世の中は狭くないことを子供に示していない。つまり大人が観れる「娯楽」としての輝きがない。
 大雑把に言うとこんなもんでしょうかね。少々厳しいかもしれませんが、僕は昔のディズニー作品が大好きなので、どうしても近年の芸のない拡大再生産路線には「ノー!」と言わねばならないですね。ではまた!
 
用心棒
2008/02/06 01:34

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