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zoom RSS 『狩人の夜』(1955) 俳優チャールズ・ロートンが手がけた唯一の作品。美しい映像が一杯です。

<<   作成日時 : 2006/01/30 23:38   >>

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 チャールズ・ロートン監督による、1955年製作作品にして、唯一の監督作品でもあります。出来栄えとしてはヒッチ先生の『サイコ』、『疑惑の影』とビートルズ後期の名曲『アクロス・ザ・ユニヴァース』の持つムードを併せ持つような作品です。サスペンス・ホラーとファンタジーが合わさったといったほうが解り良いかも知れません。

 いきなり、画面外の観客に語りかけるような、ユニークなオープニングにまずは驚かされました。今でこそ、たまに見受けられるスタイルではありますが、当時であれば、結構斬新な演出だったのではないでしょうか。聖者である年配の女性の聖職者、そして悪の化身である伝道師は我々に直接語りかけてきます。

 この時点で見る者は、正邪のいずれかの立場に立つかを迫られる。主役である幼い兄妹は、我々の代わりに悪との闘いを勝ち抜かねばならない。非力な兄妹はあまりにも無力であるが、それを見守る観客である我々は、彼らを助けてやれない己の力の無さを実感する。我々は見ることのみを許されている。

 舞台となっているアメリカの片田舎という設定も絶妙である。殺人鬼が昼から活動しているのに、幼い兄妹の兄、そして我々観客のみが犯人の残虐性を知る。パーティーを住民全員で開いたり、クッキーを焼いたりする、キリスト教で満たされている純粋なコミュニティー内部での長閑な雰囲気と、これから幼い兄妹に起ころうとしている惨劇の瞬間とのギャップが、この独特な作品を盛り上げていく。

 ミッチャムの右手指には「LOVE」が、そして左手指には「HATE」の文字が刺青で彫り込まれている。人を殺める時には彼は勿論、左手を使い、女子供を騙す時には右手を使う。「神の左手、悪魔の右手」とは正反対である。日中は羊の皮を被り、善人の証である優しい笑顔のみを見せる殺人鬼。恐ろしい殺人鬼に変わるのは夜になってからである。まるでドラキュラや狼男のように。

 いわゆるヒッチコック監督が得意としていたスリラー物であり、下手な作り方をすると、B級作品のレッテルを貼られかねない作品なのですが、それだけの評価では納まりきらない、抜群な演出の切れ味と、光と影を上手く利用した、美しい自然や生物の描写により、不思議な魅力が備わった作品として世に出ることになりました。ロバート・ミッチャムによって演じられる、サイコな殺人鬼は殺人鬼であるのみでなく、「怪物」のイメージをも併せ持っています。

 音の処理も素晴らしく、汽車の爆音で殺人鬼の到来を暗示するシーン、夜の屋外で歩いて帰るシーンでの画面一杯に満ちている昆虫や動物達の声の音と、帰宅して扉を閉めると彼らの声がまったく聞こえなくなるメリハリの良さは強く印象に残っています。

 室内での演出にもこだわりが強く、三角形の形で当てられる照明は不安感を高めています。ミッチャムの出現により、徐々におかしくなってくる兄妹の母親の精神状態の破綻、そしてミッチャム自身の異常性が画面を通して見えてきます。斜めに置かれる建築物の位置、奇妙な光の当たり方により、精神の異常性を上手く表現しているように思えました。

 不気味な映像としては、美しい川面に漂う水草の様子の後に、ミッチャムにより殺されて、川の中に車ごと捨てられた髪の長い母親の遺体の様子がシンクロするイメージはとりわけ不気味でした。殺人鬼の異常さを表す、アイリス・アウトも古臭いテクニックではありますが、ここでは上手く使われていました。兄妹を追い込むときに、ミッチャムの目とナイフが異様に光るシーンの邪悪さは、『M』でのピーター・ローレを思い出させるほどの迫力がありました。

 美しい映像も沢山挿入されている作品でもありました。川面に映る月光の反射、草木の優しさ、遠近感を利用して撮られた、まるで蜘蛛の巣から逃れるように見える小舟の様子。遠近感の効果に味をしめたのか、何度も繰り返されていく蛙(モノクロで撮られる蛙の造形がこんなに美しいとは夢にも思いませんでした。)、梟、兎のイメージ。

 自然溢れる河の映像はまだまだ続いていきます。亀、狐、柳の木、そしてとりわけ美しかったのが、何百匹もの蛍が発光させながら跳ぶ様子でした。家の近所で実際に、個人的に蛍が跳ぶのを見た最後の時は今から30年近く前のことでした。蛙もそうでしたが、モノクロで表現される蛍の光がとても美しく、忘れられない映像となっています。

 生きることを謳歌する動植物達と、それとは対照的に幼い兄妹の生命を奪おうとする卑しい、そして異常な殺人鬼の様子の対比は見ていて滑稽にさえ見える映像でした。人間の強欲を見つめる自然の目は殺人鬼の価値の無さを際立たせる。

 これほどの映画を作り上げたロートン監督が何故、再び監督業をすることなく終わってしまったのだろう。演出には切れと美意識が感じられ、非凡な才能を持っていたことは明らかである。音の使い方も優れている。作品のテンポも良い。オーバーな演技も無い。無駄にカメラを振り回すことも無い。優れた映像作家の彼が、再び映画を撮らなかったことは、映画芸術にとって大変な損失である。これだけは明らかであろう。
総合評価 88点狩人の夜
狩人の夜 [DVD]

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
コメントは久しぶりになります。

この作品の映像は強烈で、カルト的な人気を博すのが分りますね。トリュフォーが「ヒッチコック的なアイデアがいっぱい」と評しているように、映画的なエモーションが数多くある作品でした。
用心棒さんの仰るように、ロートンはこれ一本作っただけで後は役者に専念とは勿体ない気がしますね。
オカピー
2006/02/03 13:51
 こんばんは。お久しぶりです。こちらも私事で忙しく、なかなか更新できない状態が続いています。

 映像へのアイデアが沢山つまっていて、ロートンがやってみたかった事を具現化したのでしょうね。

 思い出に残る、隠れた名作のうちの一本です。このブログの趣旨にも相応しいと思い、UPしました。ではまた。
用心棒
2006/02/06 01:48
こんにちは、つい最近このブログを読ませていただきました。

この映画について、私は怖い部分を印象深く記憶していたのですが、この記述を読んだことにより、美しい場面の記憶が揺さぶられたようで、近く観返してみようと思っています。
「LOVE」「HATE」の刺青についてですが、つい最近読んだダヴィンチコードの中で、キリスト教では右を善、左を邪悪と考えられてきたとされる一文があり、真っ先にこの映画を連想しました。

最近、一時期に比べて映画を観なくなっていたのですが、このブログを読んで、放っておいたお楽しみに再度触れることが出来たようで感謝しています。
まりえ
2006/06/29 18:49
 まりえさん、はじめまして。そしてコメントをありがとうございます。

 どうしても最新の映画やハリウッド製作の派手な作品ばかりが脚光を浴びますが、それだけが映画ではないことは、ファン歴が長い映画ファンならば知っているはずです。

 大昔に見た、思い出に残る映画たちと再び巡り会う楽しさはまた格別です。当時見た印象と全く違う作品も数多く、良さを見つけてさらに好きになる作品、反対に幻滅してしまった作品いろいろです。

 個人的には3年位前からはモノクロ7割、カラー3割という状態になっています。個人的にはモノクロが大好きです。

 思い出のある良い映画に再会してください。

ではまたコメントをお待ちしています。
用心棒
2006/06/29 20:05
用心棒さん、突然こんなところにお邪魔します。シュエットはフランス語で梟…それにちなんんで「梟」がでてくる映画だけを集めたなかの最初が「狩人の夜」。言われるようにたった一作は本当に惜しいです。本作だけの感想を別の機会にと思い、ここではサラリとした感想ですが…。確か梟がでてたよな?とリストに上げるに際し再見して、改めてその恐さに面白いとつくづく思いました。オカピーさんが言われてますが、カルト的人気を博す作品なんですね。納得です。
シュエット
2008/09/13 23:20
 シュエットさん、こんばんは!
とても美しく、とても恐ろしく、とても上手く撮られた映画ですね。

本当にこれ一本というのが悔やまれます。

「梟」が出てくる映画特集ですか。楽しそうですね。僕の場合なら「用心棒」でしょうが、用心棒が出てくる映画は何千本もあるでしょうから、無理っぽいです!ではまた!
 
用心棒
2008/09/14 23:40
昨年だったかしら、神戸に行った際、コンサート開演までの時間つぶしに紀伊国屋書店に入って、そこでDVD在庫整理のセールしていて見つけました。レンタルで我慢していた作品がまさかこんな形でゲットできるとは!
やっぱりハラハラしてしまうし、見直すと本当に素晴らしい。リリアン・ギッシュとミッチャムが窓ガラスとを通して家の内と外。こんなショットも素晴らしい。
なんといっても夜の川の映像。シルエット。で最後は心温まるクリスマス。白と黒の世界を見事に描き出した作品。これはもっともっとCSなどでも放映して知って欲しい作品ですよね。とはいっても最近の若者にどこまで受け入れられるかしらね。こういう作品こそずっと受け継がれていきたい作品ですよね。本作はクリスマスにまた鑑賞します!
シュエット
2010/10/12 11:38
 こんばんは!
この作品って、なぜかカルト呼ばわりされ続けていますが、そろそろ正当な評価を与えて欲しいですね。

本当に美しい映画ですし、マニアックにも見えますが、じつに素直に綺麗なものを撮っているなあと見る度に感心します。この映画を見るとぼくはなぜかビートルズの『アクロス・ザ・ユニヴァース』というナンバーを思い出します。生きているのは素晴らしいのだと昆虫や動物、そして植物や川が話しかけてくれているような感じで、内容はダークなのですが、とてもゆったりとした気分にさせてくれる映画でした。

しかし、紀伊国屋のワゴンセールでゲットというのは羨ましいなあ(笑)

ではまた!
用心棒
2010/10/12 23:38

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