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zoom RSS 『海外特派員』(1940)ナチスドイツの宣伝相ゲッペルスがたいそう気に入っていた作品。ネタバレあり。

<<   作成日時 : 2005/12/09 17:46   >>

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 1940年製作の正統派ヒッチ作品。あまりヒッチ先生らしくない(レベルは凄く高いのですが)『レベッカ』の次に製作された今作品には、ヒッチ先生のアイデアが溢れかえっています。『レベッカ』で抑え付けられていた才能が一気に噴出してきた観があります。

 今回の主役は、いつものように事件に突然巻き込まれていくというスタイルではなく、自分から混乱を求めていく(なぜなら彼は特ダネ記者だから)新しいタイプです。ストーリー展開の中で山場となる部分が沢山あり、しかもきちんと整理されているため非常に見やすく記憶に残る作品に仕上がっています。

 政治家が暗殺される場面とその追跡シーン、逆に回る風車のあるナチの秘密アジトでの捜索と脱出、恋人の父親が実はナチのシンパだと判るシーンとその後の葛藤、墜落させられた飛行機からの脱出、そしてロンドンからの対独抵抗への呼びかけなどが短い時間に上手く整理されて提示されています。反ナチの色彩があるにもかかわらず、宣伝相のゲッペルスが好んでこの映画を見ていたというのもうなずけるほどテンポの良い作品です。

 ジョエル・マックリーが、少し軽いがとても役柄にきっちりとはまっている。そのために、いくつかの作品で見られている主役の弱さを感じない。それがこの作品に一本の太い軸を作っています。ヒロインのラレインはそれ程印象には残っていません。今回の最大の悪役であるハーバートは、むしろ悪役というよりはイギリスにとっての大罪人ではあるが、ドイツ側から見るとゾルゲのような人物ですので、あのような一見穏やかそうではあるが祖国愛に燃えている感じで良いのです。

 最も印象に残るのは、墜落後に沈没していく飛行機からの脱出シーンと、そこでの「水」の迫力です。これはこの当時の技術と物資の不足の中から、これだけの素晴らしいカットを撮ったヒッチ先生の実力を素直にほめるべきです。海に落ちていく操縦席の部分のガラス部分を、特殊な紙のスクリーンにしておいて落ちていく様子を映写しながら、一気に水を入れてカットを繋げていくなどということをしてしまうのはまさに映画作家です。迫力のあるシーンの連続は臨場感のある音響のおかげです。特に「水」の音が素晴らしい。
 
 ヒッチ先生らしいオランダといえば「風車」と「花」というなんともステレオタイプ過ぎると思われるロケーションに苦笑してしまいますが、それはそれなのでしょうか。ただ撮り方は鋭く、寂れていていかにも隠れ家にはもってこいという感じはよく出ています。光と影のコントラストのためでしょう。

 彼はその直前に『レベッカ』を撮り、翌年に『断崖』を、そして翌々年には『逃走迷路』を撮っています。撮らされた『レベッカ』からようやく撮りたいものを撮っていくイギリス時代のようなポジションに上がっていく過程であり、分岐点となる作品です。その意味でこの作品の意義は大きい。

 次々と山場が出てきて飽きさせないという作り方はまさにハリウッドの作品である。古典的なパラダイムにのっとった作品であり、ある意味方程式どおりに作った作品です。ただそれだけではなくヒッチ先生らしい凝った撮り方もきちんとされている傑作です。ただしヒロインが弱すぎる気がします。ジョーン・フォンテ―ンがこの作品から出演していたならばもっと違った印象になっていたはずです。

総合評価 87点

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
 こんにちは!
 前回の「北北西」のところで、「海外特派員」の【水車】と書きましたが、勿論、【風車】の間違いです。逆回転の風車の、絵としての面白さには惹かれます。序盤の傘と同様最もヒッチコックらしい。この作品のハイライトと仰る方も多いですね。
 それにしても「三十九夜」やこの作品が「レベッカ」や「汚名」より一般ファンの評価が低いのはどうしたものでしょ。
 それと関係があるようなないような話ですが、「水の中のナイフ」での最後のコメントは私も常日頃気になっているところです。映画鑑賞においては、物語と映像(と音)をバランスよく観て評価するということが最も大事なことでしょう。一般ファンは勿論、プロの映画批評家でもなかなか出来ていないですね。用心棒さんのコメントには【我が意を得たり】。感激致しました。
オカピー
2005/12/10 13:35
 こんばんは。結構、いろんな偉い人達が褒める名作って、ヒッチ作品に限らず、一般ファンである僕らから見ると違和感があることが多い気がします。
 ヒッチ先生作品でも有名なのは『レベッカ』・『サイコ』・『鳥』・『めまい』・『北北西に進路を取れ』・『裏窓』・『ダイヤルMを廻せ』などのようですが、個人的に好きなのは別にあります。もちろん前述のこれらは名作なのでしょうが。
 下記の作品は、仰るように前述作品に比べれば影の薄いものばかりです。でも好きなのです。『暗殺者の家』・『逃走迷路』・『海外特派員』・『疑惑の影』・『ハリーの災難』・『バルカン超特急』・『サボタージュ』・『断崖』、そして『下宿人』などです。
 『北北西〜』と『裏窓』は僕も好きです。ヒッチ先生作品については冷静に見るのは不可能なので悩んでしまいます。『マーニー』の色合いも綺麗だし。
用心棒
2005/12/12 00:41
 TB有難うございました。
 やっとここまで来ました。ここまで来ると後は早いかなあ、などと思います。最初の15本くらいは見直さずに昔書いた短評を転写するというズボラを決め込もうかなと思っていますし。
 ところで、この作品を見直しましたら、随分サイレント映画的な映像が多いのに驚きました。また、風車の場面はもっと長く逆回転の風車が他の風車と一緒に映っているのかと思ったら、意外と短かったです。人間の記憶の当てにならないことったら!
オカピー
2006/06/26 02:14
 オカピーさん、こんばんは。

 かなり長い旅なので、大変だと思います。僕も黒澤作品のことを書くときにはかなり疲れてしまいます。

 思い入れが強い人の作品を書くにはこちらにも相応の緊張感がないと、作家に対して失礼なので、軽くは書けませんね。

 ヒッチ先生のモノクロ時代の作品は映画とはどういうものなのかを理解するには最適のテキストだと思うのですが、あまり見られない方が多いように思います。

 ヒッチ作品といえば、『鳥』だの『サイコ』ばかりがとりあげられるのですが、ヒッチファンとしてはこの作品をはじめとするヒッチらしい作品群の方が思い入れもありますし、何度も見てしまいます。

 ではまた。
用心棒
2006/06/26 21:50

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