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zoom RSS 『キッド』(1921) 上映時間50分は、今では短いものですが当時は十分長編でした ネタバレあり。

<<   作成日時 : 2005/11/07 14:47   >>

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 喜劇王チャーリー・チャップリン(アルコール先生)が監督・脚本・音楽・主演という八面六臂の活躍を見せるサイレントの長編作品。短く感じるかもしれませんが、無駄なシーンや会話を一切省いて、良い部分を凝縮した印象を持ちました。

 とても素敵な作品です。チャップリン監督はモノクロとサイレントという映画創生期の巨星であり、トーキーに入っても良作を作りますが、サイレント作品の切れ味は驚異的です。

 この作品『キッド』は1921年製作ですが、今見ても新鮮で美しい「写真」に溢れています。警官が後ろからチャーリー監督とジャッキー少年をいぶかしげに見るスチール写真などでも見る機会がありますが、まさに劇中人物が生きているような感じです。

 チャップリン監督の才能を楽しめる素晴らしい一本でした。作風も変わってきたようで、『一日の行楽』などで見られたような皮肉っぽさや残酷さは無くなり、ヒューマニズム溢れる作品に真っ向から取り組んだ姿勢に感銘を受けました。

 イギリス人らしい皮肉めいた姿勢と作風では、移民の多かったアメリカでは理解されにくかったのかもしれません。そのための解りやすさが『キッド』から出て来たのでしょう。皮肉っぽい初期作品も大人の視線で見ると面白いのですが、万人に自分を認めてもらうにはある意味でマイナー・チェンジが必要だったのです。個人的には『一日の行楽』も好きな作品のひとつです。

 アメリカで富と名声を手に入れてからは、本来の皮肉っぽさや残酷さがまた顔を出してきたようで『モダン・タイムズ』・『殺人狂時代』そして『ニューヨークの王様』などに現れています。アーチストですから、作りたいものを作りたくなったのでしょう。それが興行成績に結びつくかどうかは全くの別問題だとしても。

 それはさておき、この作品でのチャーリー監督の演技・脚本・監督振りは素晴らしい出来です。しかしここでは、それら全てを吹っ飛ばして、全ての観客をこの作品に虜にする要素がありました。

 それが題名の通り「キッド」を演じた天才子役俳優のジャッキー・クーガンでした。彼が作品で示した素質は抜群のものであり、その後の全ての映画作品の子役よりもインパクトの強い魅力に溢れていました。ジャッキー少年の演技の前では流石のチャーリー監督も霞んで見えるシーンが幾つもありました。

 編集段階で上手く処理すれば、チャーリーを目立たせて作ることも可能だったと思いますが、名監督でもある彼は作品の質を重視して、スター役者としての自身のプライドにこだわることなく、冷静に自ら助演に回ったのではないでしょうか。

 恐るべき才能を発掘しました。ジャッキー少年については『一日に行楽』でも自分の子供の役を与えていましたが、その時はそれほど目だっていた印象はありませんでした。

 突然変異が起きたのでしょうか。実際、このジャッキー少年の映画俳優としてのピークはこの作品であり、成長してからは坂道を転がり落ちるようにつまらない俳優となり、一生を終えます。子供の成功に舞い上がった両親は彼の名前を使い、商売を始めるものの結局失敗して借金のみが残ったようです。

 一瞬だけ光り輝いたジャッキー少年の奇跡の演技。彼の人生の幸運の全てがこの上映時間50分の中にあるのです。はかない事実ですが、普通の俳優になり、普通に忘れられていくよりは、映画史に残る傑作の主演として語り続けられる彼は、映画ファンにとっては永遠に心に残る俳優です。

 モノクロの美しいフィルムに焼き付けられた、泣いたり、笑ったりするジャッキー少年は永遠に生きています。役者冥利とはこういうことなのではないでしょうか。TVのようにただ消費されるのとは違う映画の持つ生命力の長さを感じます。

 目に焼きついたシーンの多さで映画の価値が決まるとすれば、この作品は必ず上位にランクされることでしょう。チャーリー監督の作品には、映画の本来のエッセンスが沢山つまっているサイレントが多いのです。

 言語を必要としない、映像の流れに身を任せるだけで、理解できるサイレント作品こそが人類共通の財産として、永久に価値を持ち続ける可能性があるのではないかと思います。

 現在の映画作家たちも原点に返り、まずは音なしでも作品が成立するかどうかを見極めてから、作品を発表すれば、駄作や失敗作は数を減らしていくのではないかと思います。ここをクリアした作品ならば、名作として語り継がれていく映画となるかもしれません。

 本作には監督自身がつけた楽団用のスコアがありますが、仮に無音で見たとしてもジャッキーの泣き声やチャーリーの叫びを聞くことはそう難しくはありません。心で聞いて欲しい、味わって欲しい作品です。

 もちろん『キッド』はただ単に感動を呼ぶ作品だというだけでなく、子供を拾うシーン、食事を公平に分けるシーン、ガラスを割った後の警官との追いかけっこ、そして映画史上初のワイアー・ワークが楽しめる天使の夢のシーンなど笑いどころも満載です。「夢」のシーンでも敗者として死んで行くという落ちは結構悲しいものですが。笑って泣ける喜劇のお手本です。

総合評価 96点キッド・コレクターズ・エディション
キッド・コレクターズ・エディション [DVD]

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キッド/のらくら
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羅夢の映画放浪記
2005/12/10 00:26

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
 こんにちは。
 なるほど「キッド」から作風が多少変わったかもしれません。そう言われてみると、この後「巴里の女性」「黄金狂時代」「街の灯」と比較的ストレートな作品が続きますね。
 英国から渡ってきたジョン・シュレシンジャー、ハンガリー出身のミロシュ・フォルマン(フォアマン)などもアメリカ批判的な作品を作っていますが、時代が変わっても映画作家とはそういうものかもしれませんね。

>現在の映画作家たちも原点に返り、まずは音なしでも作品が成立するかどうかを見極めてから、

 その通り。映画は映像で語らなくては。その点で全く戴けなかったのが人気の高い邦画「いま、会いにゆきます」で、肝心な部分を全て台詞で説明しているので、別の意味で泣けてきました。悪い意味で余りにご丁寧な作り方なので、調べてみましたら、案の定スタッフはTVでの実績しかない人たちでしたよ。最初から技術がないのか、観客層に合わせているのか分りませんが。
オカピー
2005/11/07 20:34
 こんばんは。まあ、日本のというより監督の価値観を見せるだけで終わる狭い作品ではなく、普遍性のある作品で、しかも素晴らしいものを見たいと思います。
 チャップリン監督作品は素晴らしいので、つまんないことも忘れてみることが出来ます。少しでも作品の中に良さがあれば、そこだけでも伝えられれば良いと思っています。
用心棒
2005/11/08 23:00

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