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help RSS 『イントレランス』(1916)グリフィス監督渾身の作品。映画芸術の全ての要素を含む至宝。

  作成日時 : 2005/10/17 15:14   >>

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 完璧な作品です。彼こそが映画のオリジナルです。映画の父と呼ばれるに相応しいグリフィス監督の最高傑作であるばかりではなく、これを見る前と見た後では映画に対しての考え方が変わります。

 後の監督にどれほどの影響を与えたか、そしてその後の映画が如何に進歩していないかが理解されることでしょう。革命家としてやりたいことをやりつくしています。もともとの長さはシュトロハイム監督の『グリード』(貪欲)並みの8時間だったそうです。


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 映画史上で最も難解かつ、後世への影響が大きかったこの作品は時代がグリフィス監督に追いつけず、公開当時の興行は大失敗したために以後のグリフィス監督から大作を撮るチャンスを奪いました。難解だと言われ続け敬遠されてしまうこの作品ですが、現代の我々が見るとそれほど難しさは感じませんでした。

 表層的な理解に留まっているからかもしれませんが、視覚的にも精神にも訴えかけてくる巨大な映画です。重たくて興行受けしにくい「不寛容」というテーマとカットバックやクロースアップに代表される撮影技法のアイデアが満載された、まさに映画の父の作品です。

 4つのエピソード、「キリストの受難」、「バビロンの栄光と崩壊」、「メディチ家による宗教に名を借りた粛清」、「労働争議と労働者たちのその後」をリリアン・ギッシュの演じる母とゆりかごに揺すられる赤ん坊のモンタージュが相互に結び付けています。これらのエピソードを貫くテーマが「不寛容」です。

 上映時間が160分を超える大作でありますが、前の作品の『國民の創生』と比べますと時間は変わりませんが、時間軸がずれて語られる脚本は当時の観客にはそれこそ「不寛容」だったことでしょう。

 4つのエピソードの起承転結を全部ばらした後に、4つの「起」、4つの「承」という具合に順番に見せられるのはとてもくどくどしいものだったとは思いますが、人間は何も変わっていないことを理解させるにはこのような展開にする必要があったのでしょう。

 時間の軸は5つあり、4エピソードとリリアンの語りの時間が存在します。最も大事なのは実はこのリリアン・ギッシュのパートなのです。揺すられるだけで自分からは、なにも出来ない赤ん坊は愚かで未熟な人間のたとえであり、リリアンの赤ん坊へ寄せる愛こそが「寛容」の世界への鍵として描かれています。

 リリアンの時代では「寛容」は夢なのでしょうか。それとも「不寛容」を昔話として語っているのでしょうか、その興味は尽きません。製作されてから100年近く経った現代でも相変わらずの「不寛容」な世界に生きる我々をグリフィス監督はどう見るのでしょう。


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 4つのエピソードの中で生きる人々は、ある者は「不寛容」から他人を攻撃し「死」に至らしめ、その運命から逃れようとする人々は「愛」を内に秘めて戦い、ある者は悲劇のうちに人生を無理やり終わらされ、またある者は「不寛容」に打ち勝ちます。グリフィス監督が描きたかったのは、「不寛容」よりも、むしろ「愛」だったのではないか。

 4つのエピソードについて語っていきます。「キリスト受難」については多くは語られていません。教会に遠慮したのか、検閲のためなのかもしれません。水をワインに変える最初の奇跡、街中を十字架を背負って歩くシーン、そしてゴルゴダの丘での磔のシーンのみです。

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 この作品の中で最もインパクトのあるのが、キリストの後のバビロンのエピソードです。このエピソードには全ての映画テクニックが詰まっています。何よりも驚くのがそのセットの巨大さと豪華さです。大きな城を完全に建ててしまっているのですが、城壁が90メートル以上もあり、下で戦っている何千人もの兵隊役のエキストラが米粒のように見えます。

 しかもこの壁の幅も10メートル以上あり、戦車が壁の上を通っている映像を見たときは流石にグリフィス監督の狂気を感じました。そこからバビロンの王様が指示を出すのですが、彼の視線の先にあるバビロニアの街並みまでも地平線の果てまで作っています。無駄遣いもここまでくると立派なものです。
 
 そしてこの映画で一番有名なものがこの城の内部の俗に言う「バビロンの空中庭園」です。石像や神殿の石柱のばかばかしいほどの巨大さに目を奪われ、庭園の豪華さと質感に圧倒され、ここにも溢れている民衆のけた違いの多さには言葉を失いました。これ以上のものは今後二度と作られることがないだろうと言うのが頷けます。

 個人的にエジプトに旅行に行った折に、いろいろな巨大建造物や石像を見ましたが、規模の面では引けをとらないほどの大きさでした。勿論、本物の持つ歴史的な重さにはかないませんが、つい比べたくなるほどの壮大なセットです。

 セットだけでも驚きますが、それ以上に見るものの眼を驚かせるのが画面を埋めている大量のエキストラです。何千人もの無名の人たちの人生の一瞬が、カメラを通して切り取られています。吐き気を催す映像でした。


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 彼らが中心となって作り上げられたバビロニアの攻防戦の持つ迫力は凄まじく臨場感に溢れ、グリフィス監督の用いる俯瞰撮影、カットバック、クロース・アップ、移動撮影などの演出効果とあいまっての一大スペクタクルに仕上がっています。

 このバビロンのエピソードを見るだけでも映画100本分の値打ちがある事を保障します。壮大な無駄遣いがもたらしたスペクタクルの見本です。戦闘シーンでの残虐な描写も数多く驚きながら見ていました。俯瞰撮影は気球を使って撮られたそうです。

 3話目のメディチ家による大量惨殺事件ですが、他のエピソードに比べると陰が薄い題材にもかかわらず、その陰惨さは群を抜いて陰湿であり、メディチの女帝の気味の悪さには嫌悪感がありました。宗教がらみで虐殺が平気で行われるのは今も全く変わっていません。人間は変われるのか。答えは出ていません。

 第4話は近代から今も続く資本家と労働者の争い、偽善者の傲慢さが描かれています。偽善者と資本家のために職を失った労働者を、社会全体が更に不幸の底へ落とし込んでいきます。何が正義なのかを激しく訴えます。

 このエピソードでも革命的な撮影手法がとられ、機関車と車のカーチェイスやカットバックによって緊張感を上げていき、見るものを作品にのめりこませます。処刑までの時間との戦いをカットバックが見事に盛り上げています。

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 グリフィス監督が示した人類の課題である「不寛容」と、それへの解決策となる「愛」。戦いや争いの後の戦車や刑務所に咲き誇り、埋め尽くす綺麗な花々のイメージは人類の悲願である天国なのです。殺し合いを経ないと達成できないことも同時に示される美しくも悲しい映像でした。

 最高の監督、最高の女優リリアン・ギッシュ、最高の撮影技術、最高の予算、革命的な脚本がもたらした最高の映画、それが『イントレランス』です。興行的に失敗したために、彼のその後に付きまとい二度と大作を撮れなくなってしまったのが、返す返すも残念です。グリフィス監督にとって最も「不寛容」だったのはほかならぬ身内の映画会社だったのです。何たる皮肉でしょう。

総合評価 100点イントレランス
イントレランス [DVD]

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コメント(11件)

内 容 ニックネーム/日時
初めまして。ブログ「プロフェッサー・オカピーの部屋(別館)」管理人のオカピーです。
なかなかユニークな作品を取り上げられているので、興味を持ちました。お好きな監督にも共通性がありますが、僕は加えてイングマル・ベルイマンも好きですね。
ブログでは10点満点で採点していますが、自分用には100点満点式(但し実質の最高点は80点、平均点は60点、最低点は40点です)。
「イントレランス」は最初に映画館とは言えないミニシアターで観て、後にビデオを買いました。「戦艦ポチョムキン」より前にモンタージュを完成させた傑作と思います。
僕の採点では、85点(最高点を超えています)、ブログ式では10点(満点)です。
オカピー
2005/10/28 02:55
 オカピーさん、コメントありがとうございます。実は僕も何度かオカピーさんのところに行かせてもらった時に、同じ傾向のものが好きな人もいるのだと思いました。こちらからもコメントさせていただきますね。
用心棒
2005/10/28 11:57
本作は観てませんが、グリフィスの映画では、リリアン・ギッシュの「散り行く花」と「東への道」を観ました。
本作はタヴィアーニ兄弟の「グッドモーニング・バビロン」がイントレランスの撮影現場が舞台で、最期の写真の再現などもあり、一部当時のフィルムが挿入されていたりと、作品も好きだけれど、こんな映画を愛するものの心が伝わるようなシーンが興味深かったです。
シュエット
2008/03/06 11:05
 こんにちは!
 グリフィス監督作品を二本もご覧になっているのは貴重だと思いますよ。特に『東への道』はなかなかレンタル屋さんではありません。
 お住まいが関西でしたら、心斎橋のツタヤに『ホーム・スイート・ホーム』『嵐の孤児』『國民の創生』などがあります。『イントレランス』はぼくはどうしても見たかったんで、ヤフオクで落としました。スペクタクルで見応えある作品でしたので、機会があればご覧ください。この映画の印象が強かったので、ぼくの第1回記事はこの映画になりました。ではまた!
用心棒
2008/03/06 17:12
用心棒さん、こんにちは。
時間、場所、ストーリーをここまでバラバラにして、再構築していることこそが、まさに映画の映画たる所以ではないでしょうか?
グリフィスは、この方法は、演劇を写実していた当時には、そうとう批判されたでしょうね。
でも、本当に多くの映画の母体を感じます。
わたしはコッポラの「ゴッド・ファーザー・パートU」を思い出しました。
キリストの受難に関わっては、グリフィスの若さではないでしょうか?つまりインサート・ショットの意味合いが強いような気がします。チャップリンも「キッド」でキリストをインサートしています。
トム(Tom5k)
2008/06/28 13:55
>続き
現代とバビロンの対比は時代の順序が逆で、現代の向かう方向にバビロンがあるという警告のようなものを感じます。同様にバーソロミューの虐殺も現代の悲劇が当時と何ら変わっていないことへのグルフィスの苛立ちを感じます。
現代編の後半は、ドロンやジョゼ・ジョバンニの後期フレンチ・フィルム・ノワールの原型を観たように感じました。原罪すら持っていない無垢な人々が貧困によって犯罪者になり、必要以上の罰則を受けていく。
すべてがバラバラであるのも関わらず、すべてに一貫性がある、映画の素晴らしさを堪能しました。
『パリは燃えているか』のラスト・ショットのカラー・パートなども思い出しました。
では、また。
トム(Tom5k)
2008/06/28 13:56
 トムさん、こんばんは!
 仰るとおり、この映画の凄さは今現在見ることのできる劇映画のDNAの多くを、すでに20世紀初頭において獲得していることではないでしょうか。
 よって、われわれが見ていても、まったく違和感がない。言い換えるとグリフィスのセンスは100年先を進んでいたのでしょう。
 当然、ほとんどの人々に受け入れられるはずはなく、興行の大失敗を招きました。
 レ二・リーフェンシュタールと同様に、いまこそ再評価すべき映画監督のひとりでしょう。
 
追伸 次回アップは『アルジェの戦い』を予定しております。ではまた!
用心棒
2008/06/29 01:16
用心棒さん、最近、いろいろと頭を駆け巡っていた、いくつかの印象深い映画作品を、無名に近いドロン作品から想起したので、記事更新してみました。
ところで、ラルフ・ネルソン監督はご存知ですか?わたしはアメリカン・ニューシネマの先駆を言ったハリウッド作家主義の優れた演出家であるように感じております。彼の西部劇『ソルジャー・ブルー』がなければ、『ランボー』も無かったのではないかとまで思っています。
また、あまりに情報不足なので、何ともいえませんが、どうも、彼の作品を観て思うのはグリフィスの影響を直接受けているような気がしてなりません。遺伝子やDNAというより、血縁の孫という感じがしています。
では、また。
トム(Tom5k)
2008/07/12 16:14
 トムさん、こんばんは!
 残念ながら、『ソルジャー・ブルー』は未見です。今度レンタル屋さんに行った時には、注意して探してみます。
>グリフィスの影響
 意識するしないにかかわらず、刷り込みとして映像感覚というものはほぼすべてのクリエイターが共有していると思います。
 誰の影響も受けていないなどというクリエイターがいるとしたら、その人は勉強していないという大恥を自分から晒しているだけなのだと思っています。
 ではまた!
用心棒
2008/07/12 20:05
用心棒さん、こんばんは。
久しぶりに、イントレランスを再鑑賞し、ドロンとジョヴァンニの作品や「レ・ミゼラブル」などを想い出しながら記事をアップしました。
やはり、現代日本においても、日中関係や理解不能な犯罪の多くなど、「イントレランス」のテーマは、我々に多くの課題を投げかけてきます。映画的な批評とはかけはなれているかもしれませんが・・・。
しかし、多くの30年代40年代の「ギャングスター映画」や「フィルム・ノワール」、70年代の「マフィア映画」などの原型は、この現代篇にすべて集約されていると思います。
そして、今回、やっぱり、印象に残ったのは、
>リリアン・ギッシュの演じる母とゆりかごに揺すられる赤ん坊のモンタージュ
ですね。本当に美しくて哀しいインサートですね。聖母マリアを象徴させているのではないでしょうか?
キリストの受難やメディチ家の虐殺の逸話も興味深いですが、たぶん、カットされた部分には、これらの挿話の貴重な多くのフィルムがあったのでしょうね。
歴史の再現としての典型的な逸話をこのようにモンタージュした作品を超えることは、もう無理だ!
どんなに優れた映画監督でも、サイレント時代の映画を超える作品を制作することは本当に困難なことだと思います。あらためて・・・。
では、また。
トム(Tom5k)
2011/01/28 03:19
 こんばんは!
『イントレランス』に限らず、クラシックと呼ばれて、愛され続けている作品には現代の観客が見ても共感できるテーマがあるのだと思います。

 だからこそ難解に思えたであろうこの作品も現在では支持されているのでしょう。映画には古いか新しいではなく、内容を読み取れる鑑賞能力が恐らく必要なのでかもしれません。

>サイレント時代
 説明的台詞が多くなってきていますが、こういった描写を使わなければ「難しい。」とか言われてしまうから入れているわけでしょうから、われわれ観客も成長せねばならないのでしょう。

ではまた!
用心棒
2011/01/30 01:03

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『イントレランス』(1916)グリフィス監督渾身の作品。映画芸術の全ての要素を含む至宝。 良い映画を褒める会。/BIGLOBEウェブリブログ
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